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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)48号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証、第三号証の一及び二によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

本願発明は、半導体装置の製造方法に係り、特に、基板上に形成した絶縁膜に電極窓及びビア・ホールを形成する方法に関する(第二号証第一頁第一四行ないし第一六行)。

半導体装置の微細化の研究が進められているが、その微細化の一つに、基板上の絶縁膜に形成する電極窓及びビア・ホールの微細化がある。一般のウエツト・エツチングやバレル型プラズマ・エツチヤーによる等方性エツチングにより、電極窓及びビア・ホール(以下、ビア・ホールについて説明する。)を形成すると、サイドエツチングの発生により、別紙第一図面の第1図に示すように、エツチングマスクとなる薄膜5のパターンに対して、絶縁膜4に形成されるビア・ホール6の形状が大きくなる。なお、1は半導体基板であつて、その上に、絶縁膜2(例えばSio2)を介して、例えばAlより成る配線パターンが形成されている。これでは、精度良く微細なビア・ホール6を形成することができない。そこで、サイドエツチングのない方法として知られているプレーナ型プラズマ・エツチヤーを用いる。この方法によれば、一方の電極の上に基板1を配置してプラズマ・エツチングを行うため、エツチングの方向が基板表面に対して垂直になる。これは、一種の異方性エツチングである。このため、この方法によれば、第2図に示すように、絶縁膜4が、基板1の表面に対して垂直にエツチングされ、薄膜5のパターンと同形のビア・ホール6を形成できる。しかし、次の工程で、薄膜5を除去した後配線パターン(例えばAl)7を被着すると、ビア・ホール6の形状が鋭いため、第3図の8に示すように、配線パターン7の膜厚が薄くなつたり断線したりして、不良の原因となる(同第一頁第一七行ないし第三頁第四行)。

本願発明は、前記の従来の欠点を除去し、半導体装置の基板表面に形成された絶縁膜に、微細な電極窓及びビア・ホールを精度良く形成し、しかも、電極窓及びビア・ホールの形状にテーパを持たせるエツチングの方法を提供するものである。この目的は、本願発明の要旨とする製造方法により達成され、さらに、等方性エツチングをバレル型プラズマ・エツチヤーにより行い、異方性エツチングをプレーナ型プラズマ・エツチヤーにより行うことにより、より十分目的を達成することができる(同第三頁第五行ないし第四頁第三行、第三号証の一第二頁第三行ないし第一四行)。

本願発明は、前記構成により、テーパ形状を有する微細な電極窓及びビア・ホール等の孔部を形成することができるため、配線パターンを前記の孔部を通じて基板等に接続する場合、配線パターンの膜厚が薄くなつたり断線したりして不良となるのを防ぐことができるという効果があり、また、テーパ形状を有する微細な配線パターンをも形成できるので、その上に絶縁層を介して交差する配線パターンの断線も、防止することができる(第二号証第七頁第四行ないし第九行、第三号証の一第三頁第二行ないし第五行)。

2 本願発明と引用例記載の発明との一致点の認定について

(一) 一回目のエツチングのマスクと二回目のエツチングのマスクの異同

審決は、本願発明と引用例記載の発明とは、所定の薄膜パターンをマスクにして被エツチング被膜の途中までエツチングを施し、続いて前記薄膜パターンをマスクにして膜厚方向へのエツチングを施すという基本的構成において軌を一にしていると認定している。そして、前記の本願発明の要旨によれば、本願発明の基本的構成が右のとおりであることは、明らかである。

しかしながら、成立に争いない甲第四号証によれば、引用例(別紙第二図面参照)には、一回目のエツチングのマスクと二回目のエツチングのマスクについて、「この発明の特徴とするところは、いわばセルフ・アラインメント方式で複数個のエツチングを行うようにした点にある。具体的にいうと、一回目のエツチングに用いたホトレジストマスクにベーキング処理をほどこすことにより、このホトレジストマスクが当初有していた開孔部に近似した別の開孔部を定め、この別の開孔部を介して二回目のエツチングを行うものである。この特徴によれば、いわゆる目合わせ作業が必要なく、また、上記別の開孔部が当初の開孔部よりわずかに小さく形成されるのでオーバーハング現象は発生しない。」(第一頁右下欄第二〇行ないし第二頁左上欄第一一行)、「次に、第1c図に示す工程では、基板10を適当なベーキング炉内に配置して、ホトレジストマスク16をベーキングする。(中略)このようなベーキング処理により、ホスレジストマスク16は、開孔部16Aの周辺のホトレジスト部分がエツチ孔14Bの内周面に付着して新たな比較的小さな開孔部16Bを定めるようになる。この開孔部16Bは開孔部16Aよりわずかにその大きさが小さいだけで、パターン形状は開孔部16Aに極めて近似しており、開孔部16Aとは相似の関係にある。」(第二頁右上欄第一七行ないし左下欄第一〇行)と記載されていることが認められる。

右記載によれば、引用例記載の一回目のエツチングのマスクと二回目のエツチングのマスクとが全く同一のものでないことは明らかであるが、そればかりでなく、二回目のエツチングのマスクを得るために、一回目のエツチングのマスクに対しベーキング処理を施して、より小さな開孔部を有するパターン形状のものを形成しているのであるから、引用例記載の一回目のエツチングのマスクと二回目のエツチングのマスクとが実質的に同一のものであるとする被告の主張は、採用することができない。

これを詳述すると、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の発明は、「例えばシリコンオキサイド膜上にシリコンナイトライド膜を積層したSio2/Si3N4構造を有するような多重膜を所定のパターンにしたがつて精密に選択的にエツチングするための改良された方法に関する」(第一頁左下欄一八行ないし右下欄第二行)ものであり、「従来提案されているこの種のエツチング法としては、ホトレジストマスクを介して上層のSi3N4膜をエツチした後、別のホトレジストマスクを介して下層のSio2膜をエツチするものがあるが、この方法では、二つのホトレジストマスクの目合わせ作業が困難で、厳密な目合わせが実質的に不可能に近い。このため、エツチング処理部の断面形状をみてみると、下層のSio2膜の端縁部をこえて上層のSi3N4膜がエツチ孔内にひさし状に突出した形になつて形成される、いわゆるオーバーハング現象がしばしば発生する。このオーバーハング現象は特にエツチ孔内に配線用金属層の一部を配置する場合などに断線の原因を提供するので好ましくないものである」(第一頁右下欄第四行ないし第一七行)との欠点を解消するために、審決の理由の要点2認定のとおりの構成を採用して、「Sio2/Si3N4構造やSio2/PSG/Si3N4構造を持つた多重膜を所定のパターンにしたがつていわばセルフ・アラインメント方式で精確にエツチングすることができ、この場合、マスクの目合わせ作業が不要で且つオーバーハング現象の発生を伴わない」(第二頁左下欄第一八行ないし右下欄第三行)との作用効果を奏するものと認められ、さらに、その実施例をみると、一回目のエツチングとして、上層のシリコンナイトライド膜14及びリンケイ酸ガラス(PSG)膜12bが比較的大きなエツチ孔14Bを有する状態になるまでプラズマエツチングし、次に二回目のエツチングとして、下層のシリコンオキサイド膜12aをウエツトエツチングして、基板表面を露呈するエツチ孔12Aを形成しているのであるから(前掲甲第四号証第二頁右上欄第六行ないし第一六行、左下欄第一一行ないし第一六行)、引用例記載の発明においては、二回目のエツチングのマスクの開孔部16Bが一回目のエツチングのマスクの開孔部16Aより小さいものであることが、オーバーハング現象の防止という技術的課題(目的)を達成するために必須の事項であることが明らかである。したがつて、引用例記載の一回目のエツチングのマスクと二回目のエツチングのマスクとは実質的に同一のものであるとする被告の主張は採用することができない。

そうすると、本願発明と引用例記載の発明とは、所定の薄膜パターンをマスクにして被エツチング被膜の途中までエツチングを施し、続いて前記薄膜パターンをマスクにして膜厚方向へのエツチングを施すという基本的構成において軌を一にしているとする審決の前記認定は誤りである。

(二) 被エツチング被膜の側面の下部の形状について

本願発明の要旨によれば、本願発明の被エツチング被膜の側面の下部は、ほぼ垂直形状を持つパターンを形成するものとされている。

これに対し、前掲甲第四号証を検討しても、引用例には、被エツチング被膜の側面の下部の形状について明確な記載がない。もつとも、引用例添付の別紙第二図面の第1d図には、その側面の最下部12Aが基板表面に対して垂直のように表示されているが、前記のとおり、引用例記載の発明においては、二回目のエツチングとして、等方性のウエツトエツチングを用いているものであるから、それによつて形成される被エツチング被膜の側面は、本来、テーパ状を呈するものと考えざるを得ない。

この点について、被告は、引用例記載の一回目のエツチングの後残存する下層のシリコンオキサイド膜12aの膜厚は、上層のシリコンナイトライド膜14を含む全体の膜厚からみれば薄いものであるから、二回目のエツチングが等方性のウエツトエツチングであつても、形成されるエツチ孔12Aの断面形状は基板表面に対してほぼ垂直になると主張する。しかしながら、引用例には、シリコンオキサイド膜12aの膜厚が、上層のシリコンナイトライド膜14を含む全体の膜厚からみれば薄いものであることは何ら開示されていないし、別紙第二図面を参照しても、シリコンオキサイド膜12aの膜厚が、上層のシリコンナイトライド膜14やリンケイ酸ガラス膜12bに比較して、とりわけ薄いものであると認めることはできないから、被告の右主張は根拠がない。

したがつて、本願発明と引用例記載の発明とは、被エツチング被膜の側面の下部がほぼ垂直形状を持つパターンを形成する点において軌を一にするとする審決の認定も誤りというべきである。

3 相違点の判断について

審決は、本願発明と引用例記載の発明との相違点の判断において、一回目のエツチングの後に残存する膜に対してウエツトエツチングに換えて異方性のエツチングを適用することは当業者が容易に実施し得ることであるとする根拠として、<1>残存する膜の断面形状が基板表面に垂直であることを要請されていることは、その目的に徴して明らかであること、及び<2>残存する膜の膜厚が極めて薄く、開孔部形状の精度は無視し得る程度であること、の二点を挙げている。

しかしながら、引用例記載のシリコンオキサイド膜12aの膜厚が極めて薄いものであると認める理由がないことは、前記のとおりである。

また、引用例記載の発明は、オーバーハング現象の発生を防止するための多重膜のエツチング法であり、一回目、二回目のエツチングとも等方性のエツチングが採用されていることからして、引用例記載の発明において一回目のエツチングの後に残存する膜の断面形状が基板表面に対して垂直であることを要請されているとすることも理由がない。

したがつて、二回目のエツチングとして等方性のエツチングであるウエツトエツチングに換えて異方性のエツチングを適用することは当業者が容易に実施し得るとの判断の根拠として審決が挙げる二点は、いずれも失当である。

なお、被告は、本願明細書第六頁第一六行ないし第七頁第三行の記載から、二回目のエツチングにウエツトエツチングを行つても不都合がないことが明らかであると主張している。しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の右記載部分の実施例は、二回目のエツチングとしてプレーナ型プラズマ・エツチヤーによるエツチングを最後まで行うと基板1が損傷することが懸念される場合は、被エツチング被膜4の膜厚が五〇〇Å~一〇〇〇Å程度になつた時点でプレーナ型プラズマ・エツチヤーによるエツチングを止め、緩衝HF溶液によるウエツト・エツチングを行えば良好な結果が得られることを開示しているにすぎず、二回目のエツチングをすべてウエツト・エツチングによつて行う趣旨ではないことが明らかであるから、被告の右主張も採用することができない。

4 以上のとおりであるから、特許法第二九条第二項の規定を適用し本願発明の特許を拒絶すべきものとした審決は、本願発明と引用例記載の発明との一致点の認定及び相違点の判断を共に誤つてなされたものであつて、その余の点を論ずるまでもなく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

基板上に形成した被エツチング被膜上に、所定の薄膜パターンを形成する工程、

該薄膜パターンをマスクにして、被エツチング被膜に、途中まで等方性プラズマエツチングを施し、続いて、該薄膜パターンをマスクにして、膜厚方向への異方性プラズマエツチングを施して、側面の上部がテーパー形状で、下部がほぼ垂直形状をもつた、該被エツチング被膜のパターンを形成する工程、

該薄膜パターン除去法、該被エツチング被膜上に所定膜を形成する工程を有することを特徴とする、半導体装置の製造方法(別紙第一図面参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

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